Cafe Latta(カフェラッタ) 安達真理子さん、幸史さん
・移住した時期:2023年3月
・開業した時期:2023年3月(開業を考え始めてから約7か月後)
[店舗情報]
Cafe Latta (カフェラッタ)
石川県能美市小長野町二5-1
(Webサイト)https://www.cafe-latta.com/
(Instagram)https://www.instagram.com/cafe_latta/
営業時間:9:00~19:00
定休日:毎週月曜・第一日曜日お休み
田んぼロケーションの食堂カフェ。
いろんな人のつながりに助けられて生まれた店を、みんなが喜ぶ場所にしていきたい。
移住・開業を決断するまで(検討期)
01:最初から「起業・開業」ありきで、移住を考えたのでしょうか?
お店の物件探しを始めたのが2022年の夏頃。当時、同じ石川県内の金沢市近郊の野々市市で店を任せてもらっていたのですが、テナントビル都合で9月退去閉店が決定。それならばと新たに自分たちで開業を決断しました。でも、その頃は移住までは全く考えていませんでしたね。開業に向けての準備でした。
02:移住や開業のタイミングはどのように決めましたか? 決め手、後押しになったこと(きっかけ等)は、ありましたか?
この場所と出会ったことですね。夏に物件探しを進めたんですが、土地付き店舗付きの住居物件って本当に少なくて、また条件的にも駐車場の確保や、楽器の演奏会で音を鳴らしても大丈夫かなど、希望に見合う場所を求め、エリアをだんだん広げて探しました。それで候補がいくつか見つかり、以前の店を閉める9月には、8割がたここに決めていました。
ただ、前の住まいのマンションからここまで毎日片道30分かけて通いで営業を続けていくとなると、それなりに大変そう。住居もある物件だったので、じゃあ住まいも引越となっていきました。この南加賀エリアには前の店のお客さんも多くて、全く知らない人ばかりの土地ではなかったのは安心材料になりました。
03:移住や開業について、ご家族の反応やご意見はどうでしたか?
息子がちょうど高校受験の年でした。住まいを移すのかどうかで選ぶ進学先も変わってくる、そんなタイミング。「いい?」と聞くと、「行きたい」でも「行きたくない」でもなく、行ってみないと分からないという言葉が返ってきました。確かにそう。なので、じゃあ家族で行ってみよう、と本決まりに。マンション住まいから、いずれは戸建てにとは思っていたのですが、思いがけず早くなったという感じです。
開業準備について(本格準備期)
04:このスタイルで開業した、理由・いきさつを教えて下さい。
前の店のスタイルも踏襲しつつ、でも単なる移転ではなく、また新しくモチーフやコンセプトを変えていこうというスタンスで構築していきました。
05:現在の開業物件(およびお住まい)は、どのように見つけましたか? 決め手は?
不動産屋さんで見つけた、元は居酒屋さんの居抜き物件です。中は広さがあって良かったんですが、昼間でも店内が暗く、純和風。第一印象は「えっ、ここ?」と戸惑う感じでした。その段階でインテリアコーディネーターさんにも現場を見てもらい、プロの意見がとても参考になり心強かったです。主人が宿泊コンサルタントを仕事にしており、その人脈でお願いすることができました。
田んぼが広がる開放感ある景観のよさが決め手になりました。
06:利用した支援制度や補助金等はありますか?
市の創業支援の補助金メニューを使いました。
07:もし差し支えなければ、開業費用の工面についてもお聞きできますか?
先程の市の創業支援補助金に加え、日本政策投資銀行さんに事業融資もちょっとしていただき、あとは自己資金と、クラウドファンディングにも挑戦しました。
DIYで自製した部分もかなりあります。シンクや業務用冷蔵庫を自分で入れて配管をしたりだとか、店内フロア各所もカウンター周辺のタイル張りや足元の板張り、店舗のエントランス周りの造作や、外壁を一部塗り替えて外観のイメージを変えたり、駐車場のライン引きの焼き付けも。一番大がかりだったのがトイレ工事で、以前の和式の解体からウォシュレットの設置まで、DIYで仕上げました。
08:大変だったこと、困ったことは? 特に苦労した点は何でしたか?
とにかくいろんなことを同時進行で進めないといけなかった点です。ローンがそもそも組めるのかという中で金融機関とやりとりしながら、不動産の契約関係、補助金の申請書類作成、保健所の営業許可、クラファンも進行。内装デザインや工事、それも少しでも経費を浮かす為にDIY工事もパパを中心に進めつつ、メニュー作り、仕入れ、レジPOS、カフェの提供商品をどうしようか等。店名を考え、ロゴを決め、家の引っ越しもしないと行けない。全部大変だったことを、一個一個クリアしていきました。メニュー表もホームページも自前で作っています。
実際にどのくらい稼げるかが見通せていない中で、普通なら自分では出来ないからお金をかけてどこかにお願いすることまで、なまじっか以前の仕事の経験からできるせいで、それらの大変さに一気に立ち向かった感がありました。
ただ、これからずっとここで仕事をしていく場所なので、違和感が残らないように一つ一つ解決し、満足できるようなお店にしていきたいという思いもありました。できないところは力も貸してもらい、これまでの人脈も生きて、いろんな方に知恵や力を貸してもらってできたお店です。
09:工夫したことはありますか?
クラウドファンディングをやるに当たっては、開業に向けて怒涛の日々の中ではありましたが、それでも連絡が来たらすぐに返すとか、すぐにお礼を言うとか、それは本当に気をつけました。
うちの場合は前のお店がコミュニティカフェで、店に出入りする方たちがご自分でも小さく自営で活動、そのSNS発信もされていたのが大きかったです。クラファンにも抵抗感なく理解があったり、広めてもくださいました。
工夫としては、支援者への返礼リターンの種類をとにかく多くしました。新店のドリンクチケットとかももちろん入れるんですが、自分たちの将来の利益に繋がるものばかりでなくみんなも喜ぶものに、例えばあのお魚屋さんのチケット、あの整体のチケット、あそこのエステ、占い、高級ホテルまで。こちらの利益はそのぶん減りますがそれは良い減り方と思って、「ラッタはコミュニティを大事にしていきたいんだよ」というメッセージ性を込めました。あそこまで返礼の幅が広いのは、我ながらそうはない筈。実際、いろんな種類の中から選べるのが楽しかったと言っていただけました。
ただ、あまりリターンに費用をかけすぎても、手元に残る資金がもちろん少なくなる。基本的には半分残れば成功と言われています。達成したからありがとうになりましたが、達成できない場合もあり得ます。実際、心身ともに大変でした。集まった資金は、店内エアコン、カフェの備品、小物などに使用しました。
開業後のいま(現在)
10:ズバリ、お店の特徴は?
女性のかたのご利用が多いですね。ランチのお客様が圧倒的に多くなりました。だから、店名にカフェを謳っていますが飲食店に近くて、プラスちょっとゆったりとお茶の時間にゆっくり過ごしていただくお客さんが多いですね。ママ友のお茶会や、お子さま連れなど、本当にオールマイティーにご利用いただいています。ふらっと1人で来て、カウンターで過ごしてくださるのもうれしい。
以前の店では習い事の教室やイベントが9割メインだったのと比べて、ずいぶん様変わりしました。今も、笑いヨガ、フラワーアレンジメント教室、瞑想、ウクレレなど、教室開催の時間も各種設けています。
11:現在のお仕事のあらまし、日々のご様子を教えて下さい。
家と直結しているので通勤時間もないし、途中で洗濯できるなって戻れたり、自分たちの食事ももうここで食べていたり。ライフスタイルにお店がすべて直結した生活です。
モーニングの朝9時オープンで、そのままランチタイム、ティータイム。朝9時から19時までずっと開店しています。カフェとしてはどの時間でも来てもらえるように、中休みなし。最初はちょっときつかったですが、1年経って体も慣れてきましたね。
12:実際に営業し始めたら、当初の計画・想定から変わっていったことはありますか?
赤ちゃん連れのかたが、ここまで多く来てくださるとは想定していませんでした。本当に蓋を開けてみないと分からない。
あとは年配のかたも。70代、80代のおばあちゃんとお孫さんが来られて、ソファに2人で座っておられる姿も、すごくいいなと思います。
13:営業していく中で、大切にしていること、こだわり等はありますか?
私は「いらっしゃいませ」ではなくて、「こんにちは」って言いたいんです。何回か来てもらえるとお互い顔も覚えるから、「こんにちは」って言いやすくなります。コーヒーを淹れながらでもカウンター越しからお話ができる店内レイアウトは、意識したところです。カウンター席に座ってお喋りするのを楽しみに来てくれる方もいて、個人的にも楽しい時間です。
来店された方には、皆さん美味しく楽しく、しあわせに過ごしていってほしいなと思っています。
14:営業してきた中で、印象に残っている出来事、出会いなどはありますか?
ある時、お客さんがすごく遠慮がちに、ちっちゃなお花を持ってきてくださったことがありました。「何?自分で作ったの?」という会話から、実はいつか教室もやりたいとの思いをお持ちだと分かり、じゃあここでぜひと、今は月に1回フラワーアレンジメント教室をしてくれています。この土地に移って来たからこその出会いです。
15:地域とのつながりはありますか?
この辺りは伝統工芸の九谷焼の聖地なので、九谷の卸の仕事をしてる方もいらしたり、本当にいろんな人に出会えます。
スイーツでは、カヌレやグルテンフリーのチーズケーキが特徴的なメニューなんですが、この地域には、特産の農作物にこくぞう地区の柚子があるということから、地元の柚子を使ったカヌレが誕生したというご縁もありました。
16:移住後の暮らしについて、ご本人やご家族の満足度はいかがですか?
満足度、高いです。私1000%かな。
前の野々市市は、住みよさランキング全国1位になるような所。本当にそこを離れていいの?という思いもありましたが、スーパーも近くて買い物もできるし、コストコだけちょっと遠くなったぐらいですね。あと、ミニチュアダックス犬を飼ってるんですけど、田んぼの道を散歩するのも、すごく喜んでいます。
息子もおかげさまで友達もでき、高校に楽しく行っていて、「ちょっと友達とカラオケと焼肉行ってくるわ」みたいに高校生活を楽しんでいます。
パパは、これからは理想とする生活を実現させようと脱サラを決意し、自分の「永久就職先」となる店と理想のライフスタイルをここで作ろうと決めたんです。
みんな来てよかったって感じですね、本当に来てよかったです。
17:地域のお気に入り(場所や、地元の食べ物)などがありましたら。(ご本人、ご家族)
表に出れば山並みがとっても綺麗に見えて、水も綺麗だし、言うことなし。金沢辺りよりもこっちのほうが、白山が綺麗に見えますよね。白山市の鶴来がパパの地元なんですが、そこでもこんな風には見えない。天気のいい日には、「山ってこんなに綺麗なのか」と思います。
あと飛行機がね、通り道なんです。最初うるさいと思ったんだけど、妹がたまたま航空ファンで、音を聞いて感動していて、「喜ぶ人いるんだ」と思ってから考え方が変わりました。散歩していると、「こんなに大きなサイズで機体がしっかり見える」とびっくりしたりして楽しんでいます。
あとは、季節感。この店の場所を選んだ理由でもあるんですが、田んぼの変化で季節を感じます。冬になれば雪が降るし、夕陽が本当に綺麗。やっぱり自然の良さが大きいです。
18:これからの計画や、取り組みたいこと、将来展望などがありましたらお願いします。
いっぱいあるんですが、赤ちゃん連れさんが予想外に多く来て下さっているので、個室を設けたいな、ということも一つ考えています。あとは、カフェらしい外観ということで、実は外壁ももう少し綺麗にしたいなと思っていたり。
そして、やっぱりお食事。日々満足いただけるよう飽きさせないようにしたいので、お店のオープン以来、お料理メニューも少しずつ変わってきていて、これからも変わっていくのかなと思っています。メニューはみんなパパが考えてくれているんです。開店当初はソーセージのポトフがあって、今はストーブ煮込みのスペアリブやそば粉ガレットなどに変わってきました。日常の食卓にそうそう出てくるようなメニューじゃないから、喜んでいただけています。食べたことなかったって方も多いです。
ストーブの鍋を、そこに置いておくだけでも絵になるようなもの、ということで買い、じゃあ煮込みをやろうとそんな風になりゆきみたいに進んできました。常連さんが「いつもの」って言ってオーダーしてくれるほど定着しました。
これから移住・開業する方へ
19:開業や起業を考えている方へのアドバイスはありますか?
自分の場合は、コミュニティを作っておいてよかった。クラファンも、人脈の下地があったので助かりました。人のつながりでは、開業を機に倫理法人会の会員になった恩恵も大きかったです。人脈の幅が従来とはがらりと変わりますし、「昔からよく知っている地元のあの会社の社長さんって、こんなに若いんだ」と、普通なら仲良くなれない人と知り合えたのも大変化でした。そして、やはり直接顔を合わせて会っているから、こちらのSNSも見てくれて、我々が開業したと目にしたら紹介してくれたりする。自分の友達コミュニティとは全く別の、多世代の方が多く集まる場で新たな接点が持てたのは大きかった。地元としてはやっぱり必要だなと感じました。皆さんの顔の広さがありがたかったです。
でもそれだけではなく、経営者さんの中に入ることで、意識もだいぶん変わったと思います。例えば倫理法人会って朝6時スタートなんですよ。そこにちゃんと行くとか、特に何をするでなくても足を運ぶっていうことが、一つ信頼に繋がっていくのかなとも感じました。
開業前に、地域の商工会だとかに相談することも一つかな。つい自己完結しちゃうけど、「別にネットで調べればわかるよ」って思っても、「ちょっと教えてもらえませんか」的な立ち位置で行くと、またいろんなことの紹介もしてもらえます。皆さん、ちょこちょこと繋がりを持っていたりするので、開業前にしておいてよかったことは、やっぱり人脈づくり。
あとは、私たちの場合は、15~16年夫婦をやってきてお互いを分かっている中でやれたけれど、若いうちはきっとこだわりも多い。結婚したばかりとかでやる場合は、大変な場面も多いかも。でも、お互いの得意を活かして、尊重し合って、進んでいって欲しいです。
20:最後に、移住・開業を検討されている方へ、メッセージを一言お願いします。
がんばれ。やってみろ。流れにのれ。
人生は1回きりだしね。
うちの場合、つんのめること、つんのめさせられることが起きなかったんです。思うようにいかないことって、何かあってもおかしくないのに、例えば決まったはずの物件が今さらとか、お金が借りれなかったとかがなく、「あれ、全部借りれるんだ」と。もちろん当時は本当に行けるの?と思いつつ、でも神様のゴーサインとでもいうのか、流れに乗れているぞみたいな気持ちで進んでいけました。もちろん裏ではめっちゃ頑張っていろいろやるんだけど、やったらやったことがちゃんと報われるんだなって。まあ報われたと思えるのは、今こうしてオープンして1年経っての話だけど。
駄目なときって、道に迷うとか、誰かと喧嘩とか、業者が思ってた感じと違うとか、あってもおかしくない。そういうのが一切なかった。これはやれってことなんやろうなと。一粒万倍日ってあるじゃないですか。契約日やオープン日、全部そうだったんです。狙ったのも狙わないのもあったんですけど、それも何か一つなのかな?なんて思いました。
だから、がんばれ。やってみろ。流れにのれ。です。
(2024年3月インタビュー)