Kimino Studio&Cafe(キミノスタジオ・アンド・カフェ) 北山浩士さん
・移住した時期:2020年12月(移住を考え始めてから約6か月後)
・開業した時期:2021年5月(スタジオ開業は先行4月~)
(東京都 → 石川県加賀市)
[店舗情報]
フォトスタジオ併設の小さなカフェ
Kimino Studio&Cafe
石川県加賀市山代温泉16-4-5
(Webサイト) https://kimino-s.com/
(Instagram) https://www.instagram.com/kimino.cafe/
営業日・時間は変動するので、SNSをチェックしてください
カフェとカメラの二刀流。店舗は家族でDIY
美味しい料理と空間の自由度で、日々の暮らしに潤いをくれる店
移住・開業を決断するまで(検討期)
01:最初から「起業・開業」ありきで、移住を考えたのでしょうか?
カメラの仕事のほうはもともとフリーでやっていて、移住後も就職する気はなかったです。だから、開業ありきの移住だといえます。でも、箱を借りて店舗を構えることは、当初は考えていませんでした。
02:移住や開業のタイミングはどのように決めましたか? 決め手、後押しになったこと(きっかけ等)は、ありましたか?
移住の後押しのひとつはコロナ禍。当時はブライダルカメラマンをしていて仕事はあったんですが、元々自分がこの仕事をずっと続けるわけではないなと感じていて。だったら今のうちから、自分が等身大でやれることを作っておきたいと思うようになりました。また、都市に人が集まり過ぎていて、都市部でしか生きられないと皆が考えているような風潮も寂しいなと感じていたので、地方への移住に目を向けました。
店舗開業に関しては、実は移住後まもなくアルバイトをしまして、そのハードな仕事に忙殺されてしまった。「これをしにここへ来たわけでもない。自分のやりたいことに向き合おう」と、改めて方向を見定める機会になり、一気に始めたほうがいいなと思うようになりましたね。
結果的に移住2か月後の2月には店舗を借り、そこから開業準備へ。幸いと言うか、まだ店舗が完成していないうちから撮影の依頼をいただき、スタジオを先に仕上げる必要に迫られ、スタジオは4月から稼働、カフェのオープンは翌月5月となりました。
03:移住や開業について、ご家族の反応やご意見はどうでしたか?
子どもは当時まだ小さかったので嫌がるとかはなく、妻は賛成してついて来てくれたのですが、来てから「しまった!」と思ったかもしれないですね。来たのが雪の季節で、早速大変さを知りました。それもあって、店を「いずれ」ではなく早めに開けたという面もあります。
開業準備について(本格準備期)
04:このスタイルで開業した理由・いきさつを教えて下さい。
カフェも写真も前職で経験済み。自分ができる事を詰め込んだ場所です。この2つは相性がよくて、皆さんもカフェなどで、「この空間で撮影したら素敵だな」と感じていると思います。実際に撮影のためにカフェを借りるプロもいます。
写真を自分で気軽に撮れる時代になり、お金を払ってプロに撮ってもらう機会は減っています。だからこそ撮りませんかという提案もしていきますが、自分たちで撮りたいという人に空間を貸すことも考えて、店を作りました。実際に、撮影場所として使いたいと北陸全域から来ていただいていますし、撮影後には食事もしていってくれたりしていますね。
05:現在の開業物件(およびお住まい)は、どのように見つけましたか?
住まいは市の空き家バンクで見つけました。店舗のほうは不動産屋さんで見つけた賃貸物件です。元々の壁は灰色で、天井は真っ黒、床は白とグレイのいわゆる学校にありそうなタイル。今とまったく違う空間でした。
特に温泉地を狙って探したわけではなかったのですが、観光の方も通りすがりに見つけて入ってくれます。あと、小学校が近く、両親が働いている店に子どもが帰って来やすいので、いい場所でした。仕事をしながらも子どもと一緒にいられるのは、恵まれているなと思います。
06:利用した支援制度や補助金等はありますか? その情報は、どう入手されましたか?
うちの場合はいずれも使いませんでした。
07:もし差し支えなければ、開業費用についてお聞きできますか?
すべて貯金から。借金を背負ってまでやらないと決めていました。費用を抑える意味からも、店舗はほぼすべてDIYで改装しました。業者さんにお願いしたのは電気関係だけ。内装も外装も自分たちです。カフェの店内テーブルもイチから作ったり、元々持っていたものをリメイクしたものもあります。
08:大変だったこと、困ったことは? 特に苦労した点は何でしたか?
準備段階で言うなら、DIYで家具を作っていた時期が一番疲れていたかもしれないですね。大変でした。
2月に店舗を借り、4月にはスタジオがオープン。そのあいだの短期間で色々なことをすべて判断して、材料も探し、揃え、作業をし続けて実現させていった感じです。
DIYの経験が豊富にあったわけではないです。前職時代に撮影スタジオの壁紙を張り替えたことがあったぐらいですね。
09:工夫したことはありますか?
店舗の家具探しなども、リサイクルショップやSNS掲示板の「ジモティ」などいろいろ活用しました。
ただ、DIYに関しては、もしお金があったとしても自分たちでやったかなと思います。スタジオ部分にしてもカフェにしても、自分たちが創りたいと思っていることを、誰かに伝えてその通りやってもらうほうが難しい。
開業後のいま(現在)
10:ズバリ、お店の特徴は?
本格的な料理も楽しめるカフェと、写真撮影スタジオの2つを組み合わせている点は特徴的でしょうか。スタジオスペースは、たとえばヨガなどの教室会場に、レンタルスペース的にご利用いただいたりもしています。
ただ、2つの異業種を併せ持っているというのは、あくまで造りの問題。この場所を皆さんがご自分の暮らしの中で様々に使ってもらえるとうれしいですね。
11:お店のネーミングの由来を教えて下さい。
このスタジオは、あなたのスタジオだと思ってくださいね。という意味で名付けました。kiminoは「君の」です。スペースとしてお貸しすることも、最初から想定していましたので、あなたのスタジオとして自由な発想で使ってください、というメッセージです。カフェも同様に、あなたのカフェとして、ゆったり寛いだり、また様々なシーンでご利用いただけることをイメージしています。
12:現在のお仕事のあらまし、日々のご様子を教えて下さい。
モーニング、ランチ、ティータイム、今は金曜のディナーもやっていて、カフェが休みの日でも撮影の仕事をしていたりするので、今年に入って少し働き過ぎの状態。
ですがこれは、今年あたまに能登地震の影響で観光客の入りや地元の人通りも途絶えた影響からの状態。これから春以降は北陸新幹線が加賀にも停車するようになりますから、状況を見て対応していくつもりです。
13:実際に営業し始めたら、当初の計画・想定から変わっていったことはありますか?
店舗を早くから構えたこと自体が、当初の想定とは違った部分です。
また、都市部にいた頃よりも、ゆったり暮らすつもりで来ているので、今の働き過ぎの状況は、その意味では想定外ですね。
14:営業していく中で、大切にしていること、こだわり等はありますか?
一時的な流行り廃りなどに振り回されずに、自分たちのスタイルを崩さないようにやっていきたいと考えています。
15:営業してきた中で、印象に残っている出来事、出会いなどはありますか?
来てくれたお客さんの一人一人も出会いなのですが、店を作ったことで知り合った人から、写真の仕事を貰ったりしたのは、うれしい展開でしたね。近所のアーティスト夫妻が企画した屋外パフォーマンス芸術祭イベントの撮影を依頼してくださったりもありました。店が無ければできていない仕事だったと思います。場所を作ったことのプラスは大きいですね。
16:地域とのつながりはありますか? (ご商売上でも、暮らし面でもOK)
子供会の役員やPTAもやったので、親同士のつながりも増えました。店にいればいろいろ知り合える機会もあるので、地域とのつながりは増えたと思います。
17:移住後の暮らしについて、ご本人やご家族の満足度はいかがですか?
東京で暮らしていたときも、良い所と悪い所の両方があり、今の暮らしでもやはりそう。
僕の性格上、経済的な満足度や、あるいは家族と遊びに行けて楽しいとか自分の趣味が出来て楽しいとかの要素が、そのまま暮らしの満足度ではないんです。やっている事業が好調で、地域に受け入れられていたら100%になると思う。そこがまだ足りていない状況で、達成感が満たされていないのが、満足できていない要因です。
子どもたちについては、割と自分のやりたいことの世界を持っているので、不満はおそらくなさそう。日々、やりたいことをやって楽しんでいます。
総合すると、60%ぐらいになるのかな。
18:これからの計画や、取り組みたいこと、将来展望などがありましたらお願いします。
基本は地元の皆さんのご利用を増やしていきたいです。そのためにもまずはもっと知っていただけるよう、まだやっていないこともあるので、少しずつ仕掛けていきたいですね。
いずれ民泊もやりたい気持ちはあるんですが、それはまだ先になりそうですね。すべてを自分たちでやるのでなく、他の移住者さんたちと一緒に、お互いの長所を生かして協力して、ということも含めて考えていきます。
これから移住・開業する方へ
19:開業や起業を考えている方へのアドバイスはありますか?
うちの場合は店舗をDIYで仕上げましたが、あえて地元の業者さんに頼むことも一案です。実は別のお店さんが開業された時、地元の顔利きの方がプロデュースを手掛けていて、そのため地域に新規オープンが伝わり、早くからお客さんがついていた。その様子を目にして、「なるほど、そういうことか」と思ったんです。
外から移住してきてお店だけ完成しても、どこの誰が何をしている店なのか、知られていかない。最初から繋がりができると、周りにお店の口コミ宣伝をしてもらえます。
20:最後に、移住・開業を検討されている方へ、メッセージを一言お願いします。
商売だけを考えると、人が多い場所がセオリーですが、うちの場合はあえて不利なところでやるのも自分たちらしいと思ってここに来ました。この店ができたことで地元の人に、「今までは外まで行かないといけなかったけど、友だちとゆっくり食事できる場所が地元にあるんだ」と思ってもらえると、行動パターンを変えられる。
地元で成功している店を真似るのもひとつですが、逆に足りてない何かを提供できると、外から来てやる意味も感じられると思います。地域の人に、「自分のいる地域って良いな」と思ってもらえる要素になれることを考えてみるのもいいと思いますよ。
(2024年3月インタビュー)